平造脇差
生ぶ茎無銘 肥後大掾藤原貞國

Hira-zukuri Wakizashi
no sign. (Ubu-nakago)
Higo daijo Fujiwara no SADAKUNI


越前国 慶長頃 約四百十年前

刃長 一尺八分九厘
反り 一分六厘
元幅 九分七厘
重ね 二分

彫刻 表 櫃中真倶利迦羅地肉彫/裏 護摩箸陰刻
金着二重ハバキ 白鞘入

昭和二十六年東京都登録
保存刀剣鑑定書 (肥後大掾貞國)

Echizen province
Keicho era (late 16th - early 17th century,
early Edo period) / about 410 years ago

Hacho (Edge length) 33㎝
Sori (Curvature) approx. 0.49㎝
Motohaba (Width at Ha-machi) approx. 2.94㎝
Kasane (Thickenss) approx. 0.61㎝
Engraving: "Kurikara" on the right face (Omote)
"Goma-bashi" on the back face (Ura)
Gold foil double Habaki / Shirasaya

Hozon certificate by NBTHK
(Higo daijo Sadakuni)

 身幅の広い刀身に濃密な剣巻龍が彫られた(注①)、生ぶ茎無銘の平造脇差。龍は不動明王の化身である三鈷柄剣に鋭い爪を立てて摑み掛かり、鱗で包まれた長くしなやかな体を巻き付け、呑み込まんと口を大きく開け、眼窩に光が宿って生気凛々としている。差裏の二筋樋は密教の法具護摩箸で、これも刀身に映えて荘厳。越前彫の鑚の冴えは見事(注②)という他ない。
 脇差の作者は慶長頃に同門の康継と共に越前福居城下で鎚を振るい、結城秀康に仕えた肥後大掾貞國(注③)と鑑定されている。棟を真に仕立て、身幅広く反り浅く物打からふくらにかけてもたっぷりとして量感のある姿。黒みを帯びた地鉄は、板目に流れごころの肌を交えて太い地景が蠢くように入り、地肌ザングリと肌目起ち、地沸厚く付いて沸映りが立つ。刃文は大どかな湾れに互の目を交え、刃縁沸付いて光を強く反射し、沸足入り、刃中に細かな砂流しが掛かる、刃縁に微かにばさけた風情があり、帽子も康継に近似し、掃き掛けて突き上げごころとなって長めに返る。先鋭い剣形仕立ての茎も同断。放胆な作風で短寸ながら威風堂々とし、江戸初期、将軍家の北の守りを自任した越前武士の尚武の気風とこれに応えた越前鍛冶の技術の高さを伝えている。


注①…樋中の彫は平地の彫の何倍も難しく、神経を使うという(刀身彫刻の第一人者柳村仙寿先生談)。

注②…櫃内に倶利迦羅、平地に梅樹図が彫られた貞國の片切刃造脇差(重要美術品)の倶利迦羅と本作の倶利迦羅は全く同じである。

注③…櫃内に不動明王と二童子、差裏の平地に倶利迦羅が彫られた慶長十四年八月日紀の刃長九寸の短刀がある(『康継大鑑』)。

平造脇差 生ぶ茎無銘 肥後大掾藤原貞國平造脇差 生ぶ茎無銘 肥後大掾藤原貞國平造脇差 生ぶ茎無銘 肥後大掾藤原貞國 白鞘

平造脇差 生ぶ茎無銘 肥後大掾藤原貞國 差表切先平造脇差 生ぶ茎無銘 肥後大掾藤原貞國 差表ハバキ上

平造脇差 生ぶ茎無銘 肥後大掾藤原貞國 差裏切先平造脇差 生ぶ茎無銘 肥後大掾藤原貞國 差裏ハバキ上

平造脇差 生ぶ茎無銘 肥後大掾藤原貞國 ハバキ

貞國押形