平成十五年東京都登録
特別保存刀剣鑑定書
刀剣界において語られる受領銘の「近江大掾」は、忠吉家二代目近江大掾忠廣その人を指し示している。この揺るがぬ知名度は、大業物に指定されるほどの切れ味を備えていることはもちろん、小糠肌とも呼ばれる均質に詰み澄んだ小板目肌鍛えに微細な地沸が湧き上がった美しい肥前肌、そして最も整っていると高い評価を受けている洗練された姿形を完成させたことによる。二代目忠廣が家督を継いだのはわずか十九歳というも、天から授かった才能を備え、さらに門人の協力を得て初代に劣らぬ銘品の数々を鍛え上げ、忠吉家の地盤と肥前刀の魅力を確かなものとした。
慶安頃の作とみられるこの脇差は、未だ戦国時代の気風が残る寛永新刀を想わせる造り込み。寸法をやや控えめにして速やかなる抜刀を求め、先反りを付けて截断力を高め、やや厚手に仕立てて攻撃に対する防御の効果をも高めている。小杢に小板目を組み合わせた地鉄は細やかな地沸で全面が覆われ、微かに繊細な地景が立って肌目を綺麗に見せており、肥前の小糠肌の完成度の高さを窺わせている。刃文は足が刃先近くまで太く長く伸びた焼の深い互の目乱。丸みのある互の目が二つずつ並んで抑揚の付いた肥前独特の構成で、所々互の目の中に葉が焼かれて目玉状となる特徴も良く示されている。小沸に匂の複合した焼刃は明るく、透明感のある刃中に伸びた足に砂流しが流れ掛かり、その一部に繊細な金線が光る。茎と銘も保存状態が良い。