脇差
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室町後期の美濃刀工孫六兼元が創始した二つ三つと連れる尖刃を交えた三本杉の焼刃は、抜群の刃味を示したことから戦国武将達を魅了し、同時代及び後世の刀工にも多大な影響を与えた。「関の孫六三本杉」は刀史に輝く金字塔である。その造り込みの多くは身幅広めに鎬を張らせず、刃肉を落として刃先を鋭く仕立て、刃の通り抜けの良さを高めた構造。板目の流れた地鉄は硬軟の鋼を織り交ぜて強度を高めたもので、関映りが明瞭に立ち、肌目に沿って流れるような景色も生じ、全面に付いた地沸と共に凄みのある鉄肌を呈する。三本杉の刃形は一様ならず自然味があり、帽子は乱れ込んで丸く返る地蔵帽子となる。以上のような孫六の特質とも言い得る姿と地刃を備えているのがこの脇差。元来は一尺九寸ほどの長さの、素早く抜き放つべく備えられた打刀。戦国の世から四百数十年を経てもなお身幅充分に、反りを控えて中鋒に仕立てた精悍で鋭利な姿も保たれている。小板目交じりの板目肌は流れて肌目が綺麗に起ち、地沸厚く付き、さらに関映りが鮮明に現れて太い地景が躍動する弾力味ある肌合い。尖刃を交えた互の目の刃文は、矢筈風の刃、小湾れを伴い高低広狭に変化し、匂口締まりごころに小沸が付いて刃縁明るく、焼の谷には匂足が射し、刃中は匂立ち込めて澄む。鷹ノ羽鑢が施された茎には、孫六兼元に特徴的な銘が鑚強く刻されている。戦国武将垂涎の業物の全貌が示された優品である。 |
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