短刀
銘　月山北寒河江谷地俊吉
大永二年二月吉日

Tanto
Gassan Kita-sagae Yachi TOSHIYOSHI
Taiei 2 nen 2 gatsu kichijitsu

出羽国　大永二年　二十八歳　四百九十七年前
Dewa province, Taiei 2 (AD1522, late Muromachi period) , 497 years ago

刃長 八寸一分五厘 Edge length; 24.7cm
内反り僅少 a little curved go to innner
元幅 七分六厘 Moto-haba(Width at Ha-machi); approx. 2.3cm
重ね 一分六厘半　Kasane (Thickness); approx. 0.5cm
金着一重ハバキ　白鞘付
Gold foil single Habaki / Shirasaya

黒漆泡文塗鞘小さ刀拵入　Kuro usurhi awa-mon nuri saya, chisa gatana koshirae
拵全長 一尺八寸 Whole length: approx.54.6cm
柄長 四寸一分 Hilt length: approx.12.4cm

平成二十九年山梨県登録
特別保存刀剣鑑定書
Tokubetsu-hozon certificate by NBTHK

　天照大神の弟月読命を祀る月山は、湯殿山、羽黒山と共に出羽三山として崇拝され、修験者も往還した霊山。冠雪した美しい山並みを臨む麓の地、寒河江郷谷地(注�@)には「月山」を冠する刀工が、鎌倉時代の古月山以来の綾杉鍛えの伝統を堅持し、南北朝、室町時代と鞴に風を送り続けた。月山俊吉は「月山谷池之住人俊吉作」と銘した二尺六寸超の刀(注�A)の他、慈恩寺(注�B)蔵の釣灯籠を鍛造しており、「谷池大工(注�C)石垣出雲俊吉作之　天文二十四年乙卯六月吉日六十一才」の銘から、生まれは明応四年(注�E)であることが判明している。
大永二年(注�D)紀のこの短刀は、身幅広く、僅かに内に反ってふくら枯れごころの鋭利な姿。古風な綾杉鍛えの地鉄は肌目が鮮やかに起ち、粒立った地沸が付いて棟際に映りが現れた濃淡変化のある肌合。刃文は区上で焼落され、直刃に小互の目を交え、中程は刃先に迫り、ふくらで焼がやや広く、刃縁の沸深く茫洋の気があり、刃境に掛かった湯走りは鍛えに感応して綾杉状に乱れる。帽子は直調に立ち上って小丸に返る。錆色優れた茎は、「北寒河江谷池」の住居銘と工銘が独特の鑚使いで刻されている。名が通っている割に作品に触れることの殆どない、月山俊吉の実像を伝える現存稀有の遺作である。
黒漆泡文塗鞘小さ刀拵は、腰に差すに至便なるように刀身に比較して鞘が長く仕立てられ、金具は庄内風の縁頭と小柄が用いられている。

注�@…現山形県西村山郡河北町谷地。
注�A…『草創期の日本刀』。
注�B…山形県寒河江市。行基開山の古刹。本尊は弥勒菩薩。平安時代、鳥羽天皇が奥州平泉の藤原基衡に命じて堂宇を造営している。
注�C…大工とは国府や大社寺に所属し、家屋・船舶・細工物を建造製作した手工業技術者集団の長を意味した（『日本国語大辞典』）。俊吉の「大工」の呼称は月山一門の棟梁と同じ意味。
注�D…『日本刀銘鑑』に「大永二」とあるは本作である。