刀
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江戸時代中頃の元禄以降、平和な時代が続き新たな作刀の需要が減ったことにより刀工の数も激減したが、我が国の最南端にあって他国からの脅威に直面していた薩摩国では防備の意識が強く、江戸時代を通じて武器の製作と備えには余念がなかった。安常は鎌倉時代より続く波平鍛冶の五十九代と伝え、示現流剣術で知られるように、独特の剣術を背景に豪刀を使う武士からの注文に応じ、覇気ある相州伝を専らとしていた優工である。 この刀が薩摩新刀の典型で、元先の身幅広く鋒延びて南北朝時代の相州物を想わせ、さらに重ね厚く鎬が張って重量があり、激しい打ち合いを想定した頑強な造り込み。加えて区が深く残されて健全体を保っている。良く詰んだ板目鍛えの地鉄はわずかに流れて地沸が付き、肌目に沿って流れるような湯走りを伴っており、地相もまた覇気に溢れている。不定形に乱れた互の目乱の刃文は、湾れと飛焼を伴って出入りが複雑化し、物打辺りの焼が深く、帽子も調子を同じくして先乱れ返り、棟を長く焼き施している。強い沸が特徴の焼刃は、沸に濃淡強弱変化があり、しかも匂を伴って明るく冴え冴えとし、刃境には芋蔓とも呼ばれる太い沸筋が金線を伴って二筋三筋と流れ掛かり、刃境を横断して地中の湯走りとも感応し合っている。匂の立ち込めた刃中には、小足、葉、島刃が入り組み、匂と沸による複雑で緻密な景色を浮かび上がらせている。 |
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