短刀 銘 氷心子秀世 天保十年二月日
Tantou Hyoshinshi Hideyo
Tenpo 10 nen 2 gstu hi
武蔵国 天保 百七十七年前
刃長 八寸三分八厘(二十五・四糎) 反り 一分七厘 元幅 八分七厘半
棟重ね 一分二厘 鎬重ね 一分八厘 金色絵一重ハバキ
変り塗鞘合口拵入 拵全長 一尺七寸四分 柄長 四寸三分 白鞘付
平成六年埼玉県登録
保存刀剣鑑定書
秀世は田村群平と称し、新々刀の開拓者と尊称されている水心子正秀の門流で、後に二代正秀の娘婿となって号を氷心子と切り、師に倣った鎌倉時代の備前伝互の目丁子出来を得意とした。江戸麻布今里に居住し、勝海舟の父小吉とも交流のあったことが知られている(注)。
この短刀は、刺突だけでなく截断をも考慮して先反りを付けた造り込み。しかも鎬を高く棟の肉を削いで刃の抜けを良くしている。緻密に詰んだ地鉄は細やかに揺れるような杢目を交えて動きがあり、微細な地沸が付いて湯走り掛かり、地景も活力を生み出している。刃文は師正秀伝の足長く射す丁子乱で、帽子は端正な小丸返り。匂口の締まった焼刃は明るく冴え冴えとし、匂の足も鮮やかに刃先に迫る。刃境の所々に真砂のような沸が付いて光強く、その一部は湯走り状に地中に広がる。ごく淡く棟焼も施されており、ここにも実用への配慮が窺える。
付されている拵は、網代文の鉄地高彫に金で唐草を布目象嵌とした頑丈な揃い金具で装った作。鞘は金粉の上に茶と黒漆で桜皮模様に仕上げた変り塗り。白鮫皮に下り藤紋目貫を黒の細糸で蛇腹巻としている。
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