かつて、鎌倉材木座の光明寺の裏手に、海軍の軍刀鍛錬場があった。天照山鍛錬場(てんしょうざんたんれんじょう)である。日露戦争の日本海海戦で、東郷元帥は備前一文字吉房を携えて臨んだ。が、塩分を多分に含んだ海の上では刀は錆びやすいことは事実。そこで錆びない軍刀を求める声は高まり、不銹鋼を使った軍刀が天照山鍛錬場で製作された。
表題の刀こそ、天照山鍛錬場製の不銹刀。身幅尋常で重ね厚く、中間反り高くついて中鋒延びごころに造り込まれ、鎬筋凛として美しい姿。刃文は中直刃調で、帽子は端正な小丸。今なお白く輝く茎は筋違鑢が掛けられ、錨印の海軍・鎌倉天照山鍛錬場標章刻印と「天照山鍛錬場作」の銘が刻されて品質が保証されている。
藍鮫皮包鞘の桜花文真鍮地の足金物・責金具・鐺金具には一切弛みなく、黒漆塗鮫皮包の柄は、桜花文三双目貫が付されて茶色糸で巻き締められ、桜文図の縁と兜金具が付され、手貫緒も残されている。しかも、兜木、縁、鐔、旭日文の大切羽、小切羽に「カ022」と刻印があり、金具が一切なるを証している。
なお刀身を入れた拵総重量は1.42kg、柄・鐔等装着した刀身の重量は1.08kgである。