海南島(注)を拠点に中国大陸で特殊諜報活動を指揮したと伝える山田海軍中尉の所持と伝える海軍の短刀拵。深い色合いの藍鮫皮包鞘に、桜花文図の真鍮金具が色鮮やかに映えている。鍔には桜に錨の豊川海軍工廠の検査印が刻印されている。刀身はなく木刀が付されており、それを見るに、七寸弱、僅かに内反りがついた、端正な姿の短刀が収められていたことがわかる。おそらく、山田の職務を鑑みるに、いざという際には、軍事機密を保持するために自決も覚悟していたものであろう。皇軍勝利のために、不屈の闘志を胸に秘めて、沈着冷静に行動した遺影が今に伝わっている。
注 : 広東の南の海上に位置し、ベトナムなど東南アジア諸国をも睥睨。鉱物資源が豊富。昭和十四年二月から日本領であった。本作は山田中尉の海南島での写真と共に遺された軍刀と共に出たものである。