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平造脇差
銘 備州住辰房盛重作
大永八年二月吉日

Hirazukuri-Wakizashi
signature; Bishu ju Tatsunobo
MORISHIGE saku
Taiei 8 nen 2 gatsu kichijitsu

保存刀剣鑑定書
Hozon certificate

ご成約を賜りました Sold out



― 掌に感じる戦国浪漫の脈動



備後国 大永 四百八十九年前
刃長 一尺七寸三分六厘 (Edge length; 52.6cm) / 反り 六分三厘 (Curveture; 1.9cm)
元幅 九分九厘 (width at Ha-machi; 3.0cm) / 棟重ね 一分六厘半(thickness; 0.5cm)
銀着一重ハバキ 白鞘入 Silver foil single Habaki, Shirasaya
昭和四十七年長野県登録(八月九日 56870号)

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《現存品稀な戦国期の息吹を伝える貴重な遺例》

戦国時代、前線の武将は刀や太刀に加え、片手で用いる打刀を指し、至近の敵に対して素早く抜き放って応戦していたという。しかし、その大半は実戦に供されて殆ど現存しないものである。この脇差こそ正しく戦国期の打刀の違例というべき一振。

《量感と反りのある威圧感溢れる姿》

身幅広く重ね厚く量感たっぷりとし、腰反りに加え先反り高くついた姿は、高い裁断能力を物語っている。

《働き盛んで靭性を感じさせる地鉄》

 地鉄は板目に杢、流れごころの肌を交えて肌起ち、地沸厚くつき、淡く湯走りかかり、白く映りが立つ。

《帽子迄奔放に乱れる刃文構成》

 刃文は浅い湾れに互の目、丁子、尖りごころの刃、矢筈風の刃を交え、強く沸づいて刃縁の光強く、焼頭は匂で尖り、一部は千切れて湯走りとなり、刃境に金線・砂流し頻りにかかる。太い沸足盛んに入り、刃中も沸づいて明るい。帽子に至るまで奔放に乱れ込み、突き上げて長めに返る。



 辰房盛重(たつのぼうもりしげ)の大永八年紀(注①)の大平造脇差。辰房盛重は尾道住(注②)。辰房派は鎌倉後期正安頃の重則を祖に、重利、重義、重行、光重(注③)、房重、康重など、「重」の字の刀工を輩出して栄えたが、遺作は極めて少なく貴重。

注① 『日本刀銘鑑』に年紀の例として載せられている大永八年紀の作は本作であろう。
注② 南北朝時代以降は、山名氏が守護所を置き、政治・経済の中心地として栄えた。
注③ 光重には延徳四年八月日紀の備州尾道辰房光重の鎧通短刀(『銀座情報』232号)、明應二年八月紀の備州尾道辰房(光重)の刀(『銀座情報』340号)がある。








細かな鍛え割れ、疵も少なくない。しかし美術品という観点だけからは計り知れない魅力をこの刀は備えている。
いうなればこれこそが戦国浪漫というものではないだろうか。