長さ(length)97.3mm 幅(width)14mm
赤銅魚子地高彫色絵銀点象嵌 裏板金哺
made of Shakudo, iroe, silver inlay
白玉か なにぞと人の問いし時 露と答えて 消えなましものを
「あれは白玉(真珠)なのかしら?」とあの人が私に問うたときに、
「あれは露ですよ」と答えて、露のように消えてしまえばよかった…
「むかしおとこありけり…」で始まる、とある男(注)の東国への出奔から死までを歌と物語で綴った平安時代の名作古典『伊勢物語』の中の「芥川」のシーンを描いた小柄。情を通じ合った高貴な女人(注2)を背負い逃避行をする男と女、彼らを追跡する女の家の下人が描かれている。
この物語の大きなキーワードである草に置かれた露が、主題と同じ大きさで彫り描かれている。草に置かれた、銀の点象嵌の白玉の露の瑞々しさが、この切ない恋の逃避行の顛末と相まって鮮烈に心を打つ。
《伊勢物語 芥川(白玉の~)》
昔、ある男がいた。恋仲の身分の高い女性を念願叶って屋敷から奪い、芥川という川の近くまで逃げて来た時に女が草に置かれた露を見て「あれは白玉(真珠)なのかしら?」と男に尋ねた。逃避行の途中の、しかもおりしも降り出した激しい雷雨に男は女を空き家へ閉じ込め、自分は戸口に立ち見張りをする。鬼が出るともつゆ知らずに・・・・。
果たして鬼がやってきて女を攫って行ってしまう。「あれ!」と女は叫び声をあげるが、おりしも激しく降りつける雷雨の音にかき消されて戸口の外に立つ男には聞こえない。
やがて夜は明けて、男が屋内を見ると、そこはもぬけの殻で・・・・。男は悔しがり嘆いた。
女が「あれは白玉(真珠)なのかしら?」と聞いたときに、「露ですよ」と答えて、私も露となって消えてしまえばよかった・・・・。 と。
二条の后の若かりし日の話。
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(注1)在原業平がモデルとされている。